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Research

私たちはゲノムのキャリアである染色体がその構造をいかに構築しているのか、また染色体構造がいかにして生命機能を制御するのか、その分子メカニズムの解明を目指しています。

我々生物のゲノムは、染色体という形をとって次世代の細胞に継承されていきます。たとえば約31億塩基対におよぶヒトゲノムDNAは、引き延ばすと約2mもの長さになると言われていますが、これがクロマチンという形をとることで、わずか直径数マイクロメートルの細胞核の中に収納されています。DNA複製によって倍化したゲノムは、分裂期においてさらに数千から一万倍に凝縮し、分裂期染色体を形作ります。これらの分裂期染色体は次世代の娘細胞に均等に分配され、ゲノムの均等分配が達成されます。私達はこのような、ゲノムの複製から、凝縮・分配に至る一連の染色体構造変化の秩序だった分子基盤とそのダイナミックな変化を理解することで、染色体から紡ぎ出される生命機能の理解を目指しています。



ゲノム均等分配のしくみ

染色体を正しく形作るひとつの重要性はゲノムの均等分配にあります。ゲノムの複製と同期して形成される姉妹染色分体間接着はその一例です。接着は染色体分配に際し紡錘体の両極間に均等な張力を発生させる原動力となり、染色体均等分配のしくみの核心部分とも言えます。私たちは、ヒト、マウス、アフリカツメガエル卵、ショウジョウバエ細胞など、さまざまな生物種や発生ステージの細胞を用いて、接着の仕組みを明らかにする研究に取り組んでいます。

タンパク質/DNA一分子動態から明らかにする染色体構造

タンパク質一分子、DNA一分子の挙動や構造変化を観察することにより、染色体やクロマチンのローカルな構造が構築される仕組みが理解できます。私達は巨大な染色体が形作られる仕組みや、染色体上での様々なイベントとこれらのミクロな構造との関係を一分子の視点から明らかにしようとしています。一分子解析に関する論文・レビューはこちら

染色体進化

生物はつねに生息環境の変動にさらされ、生存ストラテジーを変容させることで進化の道を歩んできました。これらの変化はまた、染色体形態そのものや、その構成因子、あるいはダイナミクスに変化をもたらしています。私たちは、生物の進化にともなって、生存ストラテジーの変容がどのように染色体ダイナミクスを変化させてきたのかを、哺乳類・両生類・ショウジョウバエ・菌類などの細胞を用いて明らかにしようとしています。進化研究に関する論文はこちら

染色体機能因子と疾患

近年、染色体接着や凝縮に関係する因子を原因遺伝子とする先天性疾患が次々と報告されています。たとえば、染色体接着に必須であるコヒーシン複合体の関連因子の変異は、Cornelia de Lange Syndrome(CdLS)やRobert Syndrome(RBS)などを引き起こし、これらは総じて“Cohesinopathy” コヒーシン病とも呼ばれています。私たちは、これら染色体因子を原因とする遺伝性疾患の発症機序の解明にも独自の系を用いて取り組んでいます。

(過去の記事)理Philosophia(2015年 autumn-winter PDF